「●原発・放射能汚染問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1707】 佐藤 栄佐久 『福島原発の真実』
原子力科学者の立場から、原発の危険性を解説。分かり易くコンパクトに纏まっている。
原子力学術界における「反原発」の旗手的存在である著者の、『放射能汚染の現実を超えて』('11年5月/ 河出書房新社)に続く福島第一原発事故後の単著で、新書という体裁もあって手軽に読め、且つ、原発の危険性を知る上での入門書としても、たいへん分かり易くコンパクトに纏まっています。
まず第1章で、当時、発生して間もなかった福島第一原発の事故が、どこに重大な問題点があって今後どうなっていくのかを見通し、以降、第2章から第7章にかけて、放射能とは何か、放射能汚染から身を守るにはどうすればよいかが解説され、更に、国や電力会社が言うところの原発の"常識"は"非常識"であるということ、原子力が「未来のエネルギー」であるとされているのは疑問であること、地震列島・日本に原発を建ててはいけないということ、結論として、原子力に未来はないということが説かれています。
解明されつつある低レベル被曝の危険性に着目し(御用学者達が「修復効果説」や「ホルミンス効果説」を唱え、50ミリシーベルト以下の低レベル被曝は何ら問題無しとしているのに対し、「低線量での被曝は、高線量での被曝に比べて単位線量あたりの危険度がむしろ高くなる」という近年の研究結果を紹介している)、更に、チェルノブイリ原発事故の放射能物質観測データを基に、風と雨が汚染を拡大することを示すと共に、放射能被曝を受けた場合の年齢別危険性(20~30歳代の大人に比べ、赤ん坊の放射線感受性は4倍)を示して、乳幼児や子ども達への放射能の影響を危惧しています。
また、原発事故が起きても電力会社が補償責任を取らないシステムについても言及し(米国でも同じことのようだ)、結局そのツケは国民に回されると述べているのは、原子力損害賠償支援機構法(東電の経営と原発の運営を支援する法律?)の成立や東電の国有化検討で、まさにその通りになりつつあります。
原発を造れば造るだけ電力会社は儲かってきた背景には、資産の何%かを利潤に上乗せしていいという「レートベース」というものが法律で決められていて、資産を増やすために電力会社は原発を造り続ける―では、その費用はどうなるかと言うと、電力利用者が払う電気料金に上乗せされているわけで、結局、日本は世界で一番電気代の高い国になっているというのは、原子力発電がスタートした際の、将来「電気料金は2000分の1になる」とか言っていていた宣伝文句が全くの出鱈目であったことを思い知らされます。
このように原発は決してコストの安い電力源ではないばかりでなく、原発が「エコ・クリーン」であるというのもウソで、発電時に二酸化炭素を排出しないとはいうものの、そこに至るまでの資材やエネルギーの投入過程で莫大な二酸化炭素が排出されているとのこと、更には、発生した熱エネルギーの3分の2は海に放出されているため、地球温暖化に多大に"寄与"しているとのことです。
やがて石油資源が枯渇するから原子力発電の推進を―という国の謳い文句もウソだったようで、石油より先にウランが枯渇するとのこと、原子力を牽引してきたフランスにすら新たな原発建設計画は無く、それなのに日本が原子力を捨てることができないのは、電力会社だけでなく、三菱、日立、東芝といった巨大企業が群がって利益を得ているからだとしています。
日本は、国際公約上、余剰プルトニウムを保持できない国であり、「プルトニウム消費のために原発を造る」という発想のもとで造られた高速増殖炉でも事故が頻発していることからしても核燃料サイクル自体が破綻しているにも関わらず、使用済み核燃料の再処理工場がある青森県六ヶ所村近くにMOX原発・大間原子力発電所を造ろうとしていますが、大間原発の安全面での危険性はかなり高いとのことで、今回の震災で計画の行方がどうなるか注目されるところです。
そもそも、地震地帯に原発を建てているのは日本だけで、それが54基もあって、浜岡原発などは「地震の巣」の真上に立っており、更に原発より危険なのが使用済み核燃料をため込んでいる再処理工場で、ここが震災に遭ったらどうなるかと思うと空恐ろしい気がします。
著者の言うように、原発は末期状態にあり、原発を止めても電力供給に軽微な影響しかないのならば、もう原発は止めにすべきではないかと個人的にも思いますが、原発を廃炉にしても、巨大な「核のゴミ」がそこに残り、放射性廃棄物は何百年も監視が必要で、それは誰にも管理できる保証はない―こうなると、何故こんなもの造ってしまったのかとつくづく思いますが、高度経済成長期において、「原子力=夢のエネルギー」という幻想に日本全体が浮かされたのかなあ(手塚治虫が生前に、自作「鉄腕アトム」は原子力などの科学的将来に対してあまりに楽天的で、自分の作品を顧みて一番好きだとは思わないといった発言をしていたのを思い出した)。
本書を読んで、自分達の子孫のためにも、原発の廃絶を訴えていかなければならないのだろうと思いました。